since 2013

10th Anniversary WM PARTNERS

#02 社内外から見た
「WMバイアウト投資の特徴」とは?

WMパートナーズ株式会社
ディレクター
井芹 健太郎 株式会社ファイナンス・プロデュース
代表取締役 共同創業者
松井 克成

2023年に設立10周年を迎えたWMパートナーズ。その転機のひとつが2017年のグロース・バイアウト投資の開始でした。これは安定志向の従来型バイアウトと異なり、成長志向のマジョリティ投資です。

そこで今回は、社内外の視点からWM流バイアウトの特徴や投資事例を振り返ります。同事業を立ち上げたディレクターの井芹健太郎氏、ともにMBO(マネジメント・バイアウト)案件を成功に導いた株式会社ファイナンス・プロデュース代表の松井克成氏に語りあってもらいました。

【ふたりの出会い】 共通の知人を介したランチで情報交換

おふたりは前職の頃から交流があったと聞きました。出会いのきっかけは何ですか?

井芹:最初は共通の知人を介して、ランチをご一緒しました。たしか2017年の春でしょうか。私はバイアウト・ファンドのマネージャーとして、中堅中小企業の事業承継などを支援していました。そんな情報を交換した後、松井さんから投資案件をご紹介いただきましたね。

松井:私はドリームインキュベータ(以下、DI)の新規事業として、投資銀行業務に携わっていました。そのときは成長企業に対する投資案件を紹介したので、井芹さんのファンドにはマッチしませんでした。普通なら、そこで話は終わりです。ところが、井芹さんは他のファンドにつないでくれたんです。するとトントン拍子に話が進み、投資が成立。関係者みんなが満足する結果となりました。

井芹:それで、改めてランチをご馳走していただきましたね(笑)。

松井:その一件があったので、「いつか井芹さんと一緒にお仕事がしたい」と思っていました。

【WM参画の理由】 VCとバイアウト・ファンドの経験を
融合したい

その後、井芹さんがWMパートナーズに参画した理由を教えてください。

井芹:それまでのキャリアを活かして、成長企業に対するバイアウト投資に取り組むためです。

私は新卒で日本アジア投資に入り、スタートアップに対する投資業務に従事してきました。いわゆるベンチャー・キャピタル(以下、VC)・ファンドです。その後はバイアウト・ファンドに移り、おもに成熟期の中堅中小企業に投資してきました。

どちらも同じ“ファンド”ですが、両業界は大きく分断されています。投資対象だけでなく、ファンドマネージャーに求められるスキルやノウハウ、キャラクターまで違いました。結果として、中間的な領域が見落とされていたんです。

そんな問題意識を抱えていたころ、当社代表の徳永からグロース・バイアウト投資の構想を聞きました。WMパートナーズなら、ゼロベースで新たな投資戦略を立てられる。そんな環境に魅力を感じ、当社独自のバイアウト投資に挑みました。

井芹氏

【事業立ち上げ】 丁寧なコミュニケーションで関係者の
理解を醸成

当時のWMパートナーズにとって、バイアウト投資は新規事業のような位置づけですよね。立ち上げに苦労しませんでしたか?

井芹:多少の困難はありましたが、苦労とは感じていません。ファンドの出資者をはじめ、社内外の関係者と丁寧なコミュニケーションを続けながら、一つひとつ投資実績を積み上げていきました。ときには個人技も必要ですが、バランスよく周囲の理解を醸成することを重視しています。

松井:立ち上げの成功には、井芹さんの人柄も影響している気がしますね。

井芹:ありがとうございます。投資先の経営者の方々にとって、当社はいわば共同経営のパートナーです。それにふさわしい相手だと評価してもらえるように日々精進しています。

【WMバイアウトの特徴】 独自の視点で企業の成長性を評価

ポジショニングマップ(クリックで拡大)

WMパートナーズのバイアウト投資について、その特徴や独自性を教えてください。

井芹:まずファンドのポジショニング自体がユニークです(上図参照)。そして具体的な投資を検討する際は、杓子定規に判断しないように努めています。従業員数や経常利益といった外形的な数字だけで即断しません。成長収益力や株価算定に関しても、過去実績ベースだけではなく、今後の可能性を考え抜いて評価しています。

決して基準が緩いわけではありません。安定性と成長性の両方を求めるので、むしろ他ファンドより要求水準が高い側面もあります。

松井:WMパートナーズの特徴は、他ファンドがカバーしていない領域まで手が届く点です。まず一般的なVCの場合、画一的な投資判断を行いがちです。あるスタートアップが“伸びるマーケットの方程式”に当てはまらなければ、その時点で投資対象から外される可能性が高い。たとえば、SaaSは一時の必須要素でした。

その傾向は大半のバイアウト・ファンドも同じです。たとえば「EBITDA(償却前営業利益)5億円以上」という基準に合致しなければ、なかなか投資対象に入りません。

一方、井芹さんは流行りの方程式にとらわれず、独自の視点で企業の成長性を評価しています。当社は成長企業を支援しているので、その姿勢が心強いですね。

【WMバイアウトの意義】 他ファンドが見落とす優良企業を発掘

井芹:安定性と成長性のうち、前者は過去の延長から予測しやすい性質があります。しかし、後者は変動要素が多く、ファンドによって見方が分かれます。そのなかに「WMならできる投資」があると考えています。

松井:WMパートナーズはブランド力もあるのに、その武器をあまり使いませんよね。競争が少ない領域を戦略的に狙っているのですか?

井芹:そうですね。人気の会社だけが優れた会社ではありません。みんなが気づいていないけれど、優れた会社は数多く存在します。そのなかに事業承継・事業再編・MBOなど、エクイティに関するニーズは一定数ある。そこに誰もリスクマネーを供給しないのは、社会的にも損失でしょう。

だから、他のVCやバイアウト・ファンドにとって、魅力がなくてもかまいません。私たちが魅力的な企業や経営者だと感じれば、独自の基準で投資します。そして、その選択を正解にするために全力をつくします。他ファンドと見方が分かれるからこそ超過利益が生じ、リターンを出せる可能性もあるわけです。

松井氏

【両社連携の経緯】 MBOをめざす事業責任者を
松井氏が紹介

2021年8月には両社の支援によって、たびスル株式会社(以下、たびスル社)のMBOが実現しました。両社が連携した経緯を教えてください。

松井:もともと、たびスル社は2015年に吉田氏(現:代表取締役)がゼロから立ち上げた未上場企業内の新規事業です。高齢者施設・学童施設向けのおやつ定期宅配サービス「たびスル」を展開し、順調な成長を続けていました。

そして2019年、私たちファイナンス・プロデュース(当時はDI内の事業部)に吉田さんからご相談をいただきました。たびスル事業部を分社化して、自ら経営の舵をとりたいと。そこで、MBOのためのファイナンス戦略や資金調達について助言。スポンサー候補となるファンドをリストアップし、多数の面談を設定しました。そのひとつがWMパートナーズだったんです。

井芹:最初に吉田さんとお会いしたのは、2019年の暮れです。あるイベント会場で松井さんからご紹介いただき、5分ほど立ち話をしました。そこでピンときたので、年明けに改めて面談をお願いしましたね。

【投資判断の背景】 前職の経験からペインポイント
解消を直感

わずか数分間で事業の成長性を感じたんですか?

井芹:ええ。たびスル事業の主要顧客は介護施設や学童保育施設です。当時の年商は5億円前後でしたが、市場規模は大きい。そのポテンシャルを確信した背景には、前職のバイアウト・ファンドでの経験が活きています。

私は前職で介護施設の運営会社に投資していたので、施設長やマネージャーの方々の悩みを耳にしていました。特に大きなペインポイントは、慢性的な人手不足。たびスル事業は、そうした介護現場の業務負荷軽減に大きく寄与するので、まだまだ伸びると直感したんです。

松井:立ち話の後、吉田さんもおっしゃっていました。「あの人ともっと話がしたい」と。それまでにも複数のファンドや事業会社の方々と話してきたのですが、いちばん井芹さんが印象に残っているようでした。お互いに感じるものがあったのでしょう。

井芹:事業だけでなく、吉田さんの魅力も感じました。エレベーターピッチのように、事業内容と成長戦略、ご自身の状況などを端的にご説明いただいたからです。僭越ながら、優秀な経営者になると思いましたね。

松井:その後は数回の三者面談を重ね、MBOをめざす座組みが決まりました。井芹さんが事業の本質的価値を高い解像度で理解したからこそ、信頼関係を築けたのでしょう。

【MBO成功の要因】 複雑な利害関係を粘り強く調整

どのように両社が連携して、MBOを実現したのですか?

井芹:交渉が長期化するなか、松井さんは吉田さんに対してメンターのような役割を担っていました。当社に対しても、多角的な助言と提案をくださいましたね。

松井:そもそもMBOでは、複雑な利害関係を調整する必要があります。既存株主、経営者、事業責任者、従業員、金融機関、投資家など、多数のステークホルダーが絡みあうパズルを解かなければなりません。

経営者の立場で考えると、成長中の新規事業は手放したくありませんよね。

松井:一般論としては「社内に留まって伸ばしてほしい」と考えるのが自然です。仮に経営者が事業部の売却に前向きでも、その事業責任者に売る必然性はありません。株主のために、より高く買ってくれる相手を選ぶべきケースもあるでしょう。さらに、従業員の処遇で意見が割れる場合もあります。

もちろん、WMパートナーズのような投資家も利害関係者です。買収に際して、銀行との交渉が必要な場合もあります。こういった極めて複雑な利害関係を調整するためには、テクニックのみならず、忍耐や胆力が求められます。そのすべてを井芹さんは備えていました。

対談中の松井氏と井芹氏

【MBO後の業績】 新社長のオーナーシップで成長が加速

井芹:松井さんがいなければ、このMBOは実現できませんでしたよ。実際、土俵際まで追い詰められ、万策がつきた夜もありました。そこから松井さんにアドバイスをもらって、なんとか突破口が見えましたから。

松井:厳しい交渉が続きましたね。魅力的な事業なので、他社からも積極的なオファーが来ていたようです。高く買うだけなら簡単ですが、それだとファンドのリターンが出せなくなる。経済的な条件以外の要素で選んでもらうために知恵をしぼりました。

最終的には合理的な取引になりましたが、井芹さんに熱意がなければ2年近くも伴走できません。冷徹な合理性だけでは、困難を乗り越えられなかったでしょう。

たびスル社Webサイト(クリックで表示)

MBOを果たした後、たびスル社の業績はいかがですか。

井芹:吉田新社長がオーナーシップを発揮して、売上も利益も加速度的に伸びています。さらなる成長をめざして、新規事業にも挑んでいます。なにより、吉田さんがイキイキしている。そんな姿を見ると、ファンド冥利につきますね。

【今後の抱負】 “成長企業のバイアウトはWM”
という存在へ

松井さんからWMパートナーズに期待することはありますか?

松井:WMパートナーズと井芹さんには全幅の信頼をおいています。MBO支援の過程では、困難から逃げない姿勢を目の当たりにしました。そういった姿勢は経営者の方々も重視するポイントなので、これからも期待しています。

バイアウト投資チームのリーダーとして、今後の抱負を聞かせてください。

井芹:「成長企業のバイアウトやMBO支援といえば、WMパートナーズ」と真っ先に思い浮かべてもらえる存在になりたいですね。そのためには松井さんのような理解者を増やして、信頼と実績を積み重ねていく必要があります。そこから当社の認知や評判が広がり、新たな理解者が増えていく。地道かもしれませんが、そんな好循環を生み出したいと考えています。

Profile

井芹 健太郎(いせり けんたろう)

立教大学を卒業後、2005年に日本アジア投資株式会社(JAIC)に入社。国内のIT・通信・サービス系を中心としたベンチャー企業への投資・ハンズオン・EXIT業務、および複数のCVCファンドの運営に従事する。2009年からは日本プライベートエクイティ株式会社にて、サービス業・流通小売業へのバイアウト投資、経営支援、EXIT活動に従事。2017年11月、WMパートナーズ株式会社に参画。グロース・バイアウト投資事業を立ち上げ、同社独自の戦略を推進。これまでに6件のバイアウト投資を実行している(2023年8月末時点)。



Profile

松井 克成(まつい かつなり)

慶應義塾大学を卒業後、アフラック、SBIインベストメントを経て、ドリームインキュベータ(DI)に参画。新規事業として、起業家専門の投資銀行事業を立ち上げる。2021年6月に新規事業カーブアウト・MBOを実行し、株式会社ファイナンス・プロデュースを共同創業。大型IPOに向けた起業家の資本政策・資金調達やスタートアップM&A、大企業からの新規事業カーブアウトMBOなどを助言している。米国公認会計士。
株式会社ファイナンス・プロデュース
公式note <https://note.com/ncorn/n/naae5faeb1fbe>