Edeyans
株式会社Edeyans
代表取締役CEO
片山 裕之氏
WMパートナーズ株式会社
ヴァイスプレジデント
山本 聖也
ホテル客室清掃の変革に挑むEdeyans(イーデヤンス)。同分野に特化した清掃管理システムJtas(ジェイタス)と清掃オペレーションを組み合わせ、非効率なアナログ業務や人手不足などの課題を解決しています。
同社は2023年に総額4.3億円の資金を調達。リード投資家であるWMパートナーズ(以下、WMP)の伴走支援を受け、急成長を遂げました。2025年11月には、約6.7億円の成長資金を調達予定。さらなる事業拡大とミッションの実現をめざしています。今回はEdeyansの創業経営者とWMPのファンドマネージャーの対談を設定。投資の経緯から、具体的な支援内容、企業成長の要因、今後の展望まで、おおいに語り合ってもらいました。
まず両社の出会いから聞かせてください。
山本:はじめてお会いしたのは、2022年4月のピッチイベントです。主催は当ファンドの投資先であるブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)。そこにEdeyansの片山代表が登壇されていました。
片山:もともとBCGの宮崎代表にお世話になっていたんですよ。経営者の先輩から誘っていただいたので、イベントに参加しました。
山本:片山さんのプレゼンは15分ほど。Edeyans が着目する客室清掃の市場、業界変革に挑む姿勢、清掃管理SaaSの構想などを聞き、「これだ!」と直感しました。すでにホテルの宿泊予約や基幹業務などはシステム化されていましたが、客室清掃の領域は未開拓。この会社なら、きっとカテゴリーリーダーになれる。大きな可能性を感じ、すぐに面談を申し込みました。
片山:声をかけてもらい、うれしかったですね
山本:その後、当社代表の徳永と3名で面談しました。くわしく話を聞くと、片山さんは熱量と実行力を兼ね備えている。コロナ禍の経営危機を乗り越えた経緯を知り、心を打たれました。
どのように経営危機を乗り越えたのですか?
山本:創業事業は民泊施設の清掃ですよね。コロナ禍でその売上が激減し、新たなサービスを始めた――。
片山:そうですね。中国で新型コロナの感染拡大が報道されたのは、2020年1月頃。当初は対岸の火事と軽視していましたが、先輩経営者に忠告されまして。何もしないと会社が潰れると。すぐに経営幹部と話し合い、3月に事業戦略を転換。除菌消毒サービスを始めました。宿泊施設だけでなく、オフィスや商業施設も対象です。
会議の2日後にはプレスリリースを打ち、1週間後に新サービスのランディングページを公開。それらをSNSで拡散してもらうと、問い合わせが殺到したんです。あとは除菌消毒をひたすら続ける毎日。民泊施設の清掃サービスの売上は激減しましたが、全体では前期並みの年商を確保しました。
山本:その後、ホテルの客室清掃サービスへ事業転換したんですよね。
片山:ええ。ピンチはチャンスです。翌年に創業地の大阪から東京に進出し、ホテル客室清掃という巨大市場に参入しました。そして、業界全体の課題を解決できる事業を構想。除菌消毒サービスの利益を清掃管理システムの開発に投資し、2022年にSaaS事業を立ち上げました。
山本:そのスピードと巻き込み力がすばらしい。当時の不透明な状況で実行できるのは、並大抵のバイタリティーではありません。また、Edeyansの事業は観光立国である日本の国益にもかないます。私はコンサルティング会社で観光産業を支援していたので、個人的な思い入れもありました。ぜひ応援したいと。
2023年8月、EdeyansはWMPをリード投資家として総額4.3億円の資金を調達しました(銀行融資を含む)。なぜWMPから出資を受けたのですか?
片山:当社のポテンシャルを信じてくれたからです。現場の客室清掃業務にJtasを活用し、共創のサイクルを回す。そんな事業モデルを評価してもらえました。
山本:自社のスタッフが客室清掃を行っているからこそ、課題解決の解像度が上がり、プロダクト開発のPDCAサイクルも速くなる。そんな話で盛り上がりましたね。
片山:あとは信頼感です。山本さんは駆け引きをせず、腹を割って話し合えます。一緒に長くやっていけそうだと感じました。
投資後の関係はいかがですか?
片山:想像通りです。山本さんのコミュニケーションが率直なので、本音でぶつかれます。しかも、その密度が濃い。毎週2時間の経営会議を開いていた時期もありましたが、毎回参加してくれました。スタートアップの起業家仲間には驚かれますよ。
山本:私のモットーは経営者に伴走することです。もともと予実管理などのPDCAサイクルを速く回すために、経営会議の頻度向上を提案しました。当時はEdeyansの東京オフィスがなかったので、当社の会議室を使っていましたね。
片山:その節はお世話になりました。
山本:経営会議の他に、月次の定例会議も開いています。そこでは中長期的な戦略や会社の課題について議論。当社代表の徳永も参加しています。
片山:徳永代表は酸いも甘いも知っているベテランです。だから僕の話に耳を傾けて、すべて受け止めてくれる。懐が深く、うまく導いてもらっています。
その他の支援内容を教えてください。
山本:投資前には事業計画の精緻化を支援しました。それと並行して、デューデリジェンスを実施。管理部門の課題を洗い出し、それらの優先順位と解決法を整理しました。投資後は管理部門の方々と連携し、内部管理体制を強化しています。
片山:業界の模範となるため、特に労務管理には力を入れています。たとえば、従業員の着替え時間を労働時間に算入するように。これは当社役員と山本さんによる改善案です。粗利益は減りますが、迷わず変更しました。
山本:外注先も含めて、労務管理を徹底しています。さらに顔認証打刻システムや遠隔監視カメラなどを導入して、労働生産性を向上。外国人材も活躍できる環境を整えています。
片山:不測の事態が起きた際も助けられましたね。昨年に管理部門の大黒柱が休職し、大きな穴が空いたんです。財務・法務・労務・総務といった幅広い分野をカバーする、かけがえのない人材でした。
山本:すでに管理部門の課題を整理していたので、状況は把握できました。まずは経理の仕訳作業を外注し、担当者の負担を軽減。次にBCGの社外CFOサービスを活用し、財務戦略を支えました。その後は社外CFOや総務担当者と相談しながら、着実に課題を潰しています。
片山:おかげで大きな混乱もなく、社長業に集中できました。山本さんとは密にコミュニケーションをとっているので、細かい指示や説明は必要ありません。
山本:そういえば、最近もありましたね。社長業に集中してもらうために、新たな取引銀行との打ち合わせを私が代行して――。
片山:山本さんは当社の背景を理解しているので、事業戦略や求める人材像などを改めて説明する必要がない。意思疎通を超えた"脳内同期"と呼んでいるのですが、山本さんとはシンクロしている感覚があります。
山本:濃密な経営会議のおかげです。
片山:あとはキーマンの紹介も助かっています。M&Aや海外展開について相談すると、その道の先達を紹介してもらえる。セッティングが早く、的を外しません。
シリーズAの資金調達から、約2年が経ちました。さまざまな支援を受けて、企業成長を果たしましたか?
片山:売上は2倍に伸びました。これはプロダクト開発にエクイティマネーを費やせたからこそ。事業活動の利益を投資するだけでは、イノベーションを起こせなかったでしょう。
山本:特にSaaS事業の伸びが顕著です。きっかけはホテル基幹業務システムとのリアルタイム連携。このAPI連携を契機に、大手ホテルチェーンへの導入が急速に進みました。
これらを支えているのが、片山さんの巻き込み力です。経営トップの魅力に引き寄せられて、戦略・開発・カスタマーサクセス・人事労務・客室清掃など、優秀な人材が続々と加わっています。
Jtasの概念図
2025年11月、EdeyansはシリーズBの資金調達(約6.7億円)を行う予定です。その理由を教えてください。
片山:当社のポテンシャルを確信できたからです。追加資金でレバレッジをかければ、もっと事業を伸ばせる。業界の課題解決など、めざす世界に近づけます。
WMPとオリエンタルランド・イノベーションズが加わる枠組みは前回と同じです。なぜ、他の投資家を選ばなかったのですか?
片山:シリーズAの頃より信頼関係が深まっているので、既存投資家を選ぶのは自然な流れです。起業家の仲間からは「片山君は甘い」「多くのVCと交渉すべき」と言われましたが、WMPは当社を高く評価してくれました。納得できる株価が提示されたので、他の選択肢は考えませんでしたね。
山本:お互いに駆け引きをせず、率直に話し合いましたね。2023年の初回投資から事業進捗が順調に進み、次なるステップも見えてきました。これまでの実績と集まった人材を鑑みれば、圧倒的なカテゴリーリーダーをめざせる。だから、追加投資を決めました。
今後の展望を聞かせてください。
片山:SaaS事業については、新たな調達資金で開発チームを強化します。そして客室清掃だけでなく、ホテルの間接業務を支援するソフトウェアを開発。その後は地方の中堅ホテルやアジア地域のホテルにも、サービスを提供したいと考えています。
オペレーション事業については、独自施策で競争力を強化します。具体的にはインドネシアに拠点を新設し、現地の人材を採用・育成。そこにテクノロジーを組みあわせます。さらに、国内のロールアップ戦略を描いています。この業界には志を同じくする会社が多いのですが、IT投資や人事労務の分野が遅れています。そんな同業者をグループ化して、良質なサービスを提供したいですね。
山本:同じ目標に向かって、これからも支援を続けます。当ファンドは他の投資先もロールアップを進めているので、その経験を共有できます。
ロールアップ戦略以外に、業界を変える展望はありますか?
片山:客室清掃に従事するスタッフの報酬と社会的地位を上げたいですね。ハウスキーピングは職人芸の世界なので、当社では「ルームマイスター」と呼んでいます。彼ら彼女らがいなければ、いくらホテルが増えても日本の観光産業は成り立ちません。
その試みとして、人事評価制度を整えています。当社には300名近くのルームマイスターがいますが、新人とベテランの技量は全く違う。だから、後者には相応の報酬を支払いたい。たとえば、各人の技量を顧客に明示して、最適なサービスレベルを選んでいただく。高級ホテルの場合、料金が高くても最高品質の客室清掃を求めるかもしれません。その付加価値を熟練スタッフの報酬に反映し、業界全体の水準を引き上げたいと考えています。
山本:片山さんの内面は情熱的ですが、常に自然体ですよね。昔からモチベーションの上下を感じません。
片山:そうですね。社内では"青い炎"と表現しています。見た目が派手な赤い炎よりも、熱くて持続する。そんな青い炎を燃やして、いい会社をつくりたい。マラソンを走るように、じっくり経営に取り組むつもりです。
最後に、成長志向の経営者へアドバイスをお願いします。
片山:お金儲けが目的ならば、出資を受ける必要はないでしょう。でも社会や業界を変えたいなら、エクイティマネーを活用したほうがいい。さまざまなステークホルダーを巻き込みながら、視座の高い経営ができるからです。ものごとを社会や業界レベルで考えられるなんて、これほど楽しいことはありません。少なくとも、僕はワクワクしています。

近畿大学在学中に民泊施設の清掃事業を立ち上げる。2018年に同校を卒業後、株式会社Edeyansを設立。関西を中心に同事業を展開しながら、デジタル投資を進める。2020年、いち早く除菌消毒サービスを開始し、コロナ禍の経営危機を乗り越える。その後、ホテル向け客室清掃サービスへ事業転換。商圏を全国に拡大する。2022年、ホテル業界の課題をテクノロジーで解決する客室清掃管理システム「Jtas」をリリース。自社スタッフによる客室清掃サービスを組みあわせ、業界の課題解決に挑んでいる。

2013年、英国バーミンガム大学大学院の修士課程(国際ビジネス専攻)を修了。同年、日本貿易振興機構(JETRO)に入構。国内の消費財・サービス業関連企業の海外展開を支援する。2015年、PwCあらた有限責任監査法人に入所。国内外の製造・流通・サービス業関連企業の監査業務に従事する。2019年、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社。旅行・製造・通信業関連企業のM&A、新規事業領域参入の戦略立案・実行を支援する。2022年、WMパートナーズ株式会社に参画。2023年、同社運営ファンド(WMグロース5号投資事業有限責任組合)が株式会社Edeyansに投資。2025年11月に追加投資を行い、伴走支援を続けている。