ソノーラテクノロジー#2
ソノーラテクノロジー株式会社
代表取締役社⻑
鈴木 伸弥氏
ソノーラテクノロジー株式会社
取締役会⻑
⻘木 雄介氏
いま、投資市場はスタートアップ企業に熱い視線を送っています。ただ、「そればかり」になっていませんか? 成長を追求し、そのための出資を求めているのはスタートアップ企業だけではありません。本企画では、設立からの長い戦いを経て、なおベンチャースピリットを失わず、さらなる成長をめざす「大人ベンチャー」を取材。その成長戦略のリアルに迫ります。
今回は、自動車や家電製品を開発するメーカーが製品の音響データを収集するための無響室・防音室の製造販売で躍進するベンチャー、ソノーラテクノロジーが登場する後編です。従業員一人ひとりが経営マインドと職人魂をもち、少数精鋭ながらニッチ分野でトップを走る同社。成長の途上にあってM&Aによるファンドとの提携に踏み切ります。外部からの資本の受け入れが、経営にどのような影響をもたらしたのか、代表取締役会長の青木さんと取締役社長の鈴木さんに聞きました。
企業売却の相手には、さまざまな候補があったと思います。そのなかでWMパートナーズを選んだ理由はなんですか。
青木:成長を加速させるためのパートナーとして、いちばんふさわしいと考えたからです。もともと、私は「ゼロからイチを立ち上げる」のが得意なタイプ。ソノーラテクノロジーを売却したら、それで得た資金を元手に、また新たな事業を立ち上げていく構想がありました。
いまはWMパートナーズからの要請もあって、ソノーラテクノロジーの経営に引き続きあたっていますが、いずれは退く予定です。後任には「イチのものを百に、千にしていく」のが得意な鈴木に就いてもらう。
そのとき、鈴木のよき相談相手として、また知恵袋として、WMパートナーズには期待がもてました。ベンチャー企業のさまざまな成長戦略についての知見があり、それを提供してもらえると感じたからです。
出資の受け入れ後、WMパートナーズからは、どんな支援が得られましたか。
鈴木:従来からの課題であった組織管理体制を強化するための支援が得られました。従業員の自由度や会社のスピード感を維持しながらも、経営管理を強化するための月次会議の開催や、コンプライアンス強化などのアドバイスをいただいています。当社の強みとなっている、よい部分は変えずに、変えるべきところは変えるという方針は、現場の混乱を避けることもできるのでよかったですね。
青木:当社がさらなる成長戦略を描くための、マーケティング面での支援も効果的でした。そのひとつが海外展開です。じつは、過去に海外進出を試みたのですが、日本ほどのニーズがなく断念した経緯があります。しかし、WMパートナーズを通した市場調査により、近年では市場が拡大していることがわかりました。
そこで、欧州を皮切りにグローバル市場への再進出を計画しており、現在、パートナー企業の選定まで済ませ、具体的な契約内容の詰めに着手しています。
また、国内市場における中小企業向けの開発戦略についても、貴重なアドバイスをいただきました。当社の製品は大企業向けなので、スペックが高いのはいいのですが価格も高く、中小企業は手が出せません。
その一方で、中小企業が製品開発を進めるうえでも、音響試験設備は欠かせない。そうした点を考慮に入れて、「適度なスペックをそなえたミドル・ローエンド品を開発すれば中小企業向けのマーケットも拓けるのではないか」とのアドバイスをもらい、すでに着手しています。
鈴木:それ以外にも、営業戦略はもちろん、新製品や新規事業の開発についても、日々、ディスカッションをしています。会社が中長期で成長・発展を続けていくために、どうするべきかを一緒に悩み・考え、それらを実現するための市場調査やネットワーク開拓にも動いてくれています。
自分たちが考える事業戦略やアイディアを客観的に評価しながら、アドバイスや後押しをしてくれるのは大変心強いですね。
ソノーラテクノロジーの場合は、従業員が株主でもあるという特殊性があります。多くのベンチャー企業はストックオプションなど自社株と連動した報酬を従業員に用意。IPOにより多額のキャッシュが得られることをアピールして人財を集めています。
しかし、IPOを果たして、キャッシュを得てしまうと、一気に従業員のモチベーションが下がり、その後の成長戦略の推進に支障をきたす例が多くあります。ソノーラテクノロジーにおいては、どうだったのですか。
鈴木:確かに、「燃え尽き症候群」のようなマイナスの影響の懸念が皆無であったといえばうそになります。でも、実際にはまったくそんなことはなく、従来通り、会社の経営に責任をもちながら、モチベーション高く仕事をしてくれていますね。
IPOの場合、従業員はそれを「ゴール」として突き進んでいくもの。だから「ゴールにたどり着いた」とたんに、目標を見失い、やる気が低下していってしまうのではないでしょうか。それに対して、当社は企業売却をゴールとしていたわけではありません。
売却時に従業員が得たキャッシュは、ここまで会社を成長させてきたことへの、「少し多めのボーナス」といった感じに受けとめられているようです。そして、「会社を成長させたら大きなリターンを得ることができる」という成功体験を得たことで、今後もその能力を最大限に発揮してくれるものと期待しています。
「創業当時のマインドを維持しながら、もう一段、成長を加速させたい」と思っている中小・ベンチャー企業の経営者に向けて、アドバイスをください。
青木:私たちは、WMパートナーズと連携してM&Aという未知の領域に足を踏み入れ、新たな成長の果実を得ることができました。ベンチャー企業の経営者であれば、未知の領域に踏み出す勇気はあるはずです。M&Aがもつネガティブな印象にまどわされずに、プラスの側面を見つめて、さらなる成長を実現するための選択肢に入れてみてください。
鈴木:経営者は、経営についても誰にも相談できず、自分で抱え込む傾向にあります。私たちはM&Aを選択することによって、外部からの客観的な視点による新たな成長戦略を得ることができました。自分だけの能力ではおのずと限界が訪れます。外部のパートナーと組むことによって、自分の能力をさらに引き出すことができるという考え方もあると思いますね。